破産管財人とは?


破産管財人とは、破産手続きにおいて破産者に代わって破産者の財産を管理し、これを処分・換価して各債権者に分配する役割を担っている人のことを言います。
破産管財人は、裁判所から選任されます。通常は、弁護士の中から選任されます。
個人の破産の場合には、破産管財人が選任されずに破産手続きが終わることもあります。破産管財人が選任されずに終わる破産事件のことを、同時廃止事件といいます。破産管財人は、申立代理人とは異なり、破産申立てをした破産者のためというよりもむしろ債権者のために必要な業務をおこなうことになります。

破産管財人の業務

裁判所から選任された破産管財人は、破産者の代わりにその財産を管理し、売却等の処分をおこない、各債権者に対して公平に配当をおこないます。
破産法においては、破産管財人に次のような権限が認められています

・不動産や船舶の任意売却(破産法78条2項1号)
・鉱業権や漁業権、特許権、意匠権や商標権、著作権又は著作隣接権の任意売却(同78条2項2号)
・破産財団の事業譲渡や商品の一括売却(同78条2項3号・4号)
・債権や有価証券の譲渡・動産の売却(同78条2項8号)
・破産者に宛てた郵便物または信書便物の閲覧(同81条・82条)
・破産財団に属する帳簿や書類、物件の検査(同83条)

破産管財人は、破産者の財産を調査し、売掛金や貸付金などの債権があればこれを回収し、各債権者へ配分できるようにします。
そのなかで必要があれば、破産者の代理人として裁判を起こすこともあります。
逆に、破産者の財産に関する裁判を起こされた場合には、破産管財人が破産者の代理人として応訴することになります。
また、破産者の財産を売却し、お金に換えて各債権者に対して公平に分配できるようにします。
たとえば、不動産がある場合には、不動産業者に任意売却等の手続きを依頼します。
在庫商品や高価品などがあれば、業者等に対して売却します。
それ以外にも、破産管財人は、債権届出の内容等に問題があると考えた場合には異議を述べるなどの業務をおこないます。
また、破産者の財産等を調査するため、破産者の郵便物を閲覧したり、破産者の帳簿等を調査したりすることができます。
破産管財人は、業務の進ちょく状況等を、債権者集会等で債権者・裁判所に報告する義務があります。
破産管財人が破産者の財産の回収を終え、債権者に対する配当をすべて終了した場合には、破産手続きを終結しなければなりません。

破産手続き中は郵便物が破産管財人に転送される

法律上、破産手続き中に送付された破産者宛ての郵便物は、破産管財人のもとへ転送されることとされています。
これは、破産管財人が配当すべき財産を発見する手がかりとしたり、もし破産者が財産を隠したりなどの不正行為をおこなっていた場合にこれを防止するためです。
なお、破産者には、破産管財人に対して説明義務があります。

破産管財人の調査に協力しなかったり、破産管財人の質問に答えなかったりなどした場合には、免責不許可事由として免責手続きの際に問題とされたり(借金がそのまま存続する可能性があります。)、ひいては犯罪行為となることもありますので、注意が必要です。

どのような人が破産管財人になるのか?


破産法等の法律上は、破産管財人に必要な条件や資格等について定めた条文などはありません。
もっとも、破産管財人は、破産法等の法律にしたがって管財業務をおこない、場合によっては破産者に対して起こされた裁判に対応しなければなりません。
このように、破産管財人には、法律上の知識や経験が必要となるために、実務上は、一定程度経験を積んだ弁護士が通常は選任されます。

少額管財・通常管財とは?

破産管財人が業務をおこなうための費用は、破産者が納付する予納金から支払われます。
通常の管財事件では、必要な予納金は、50万円以上とされることが多く、債務総額や債権者の数その他ケースの複雑度によってはさらに高額となることもあります。
しかし、すべてのケースでこのような高額の予納金を要求すると、破産ができない多重債務者が放置されてしまうことになりますし、さりとて安易に同時廃止事件として処理することを認めると、調査不足のまま免責(借金が無かったことになること)が認められてしまうことになり、問題があるのではないかと指摘されていました。
そこで、近年、少額管財事件といって、それほど長期間の調査が必要ないと思われる事件などについて、通常の管財事件よりも予納金を少なくしたうえで破産管財人を付けることにするという扱いがなされるようになりました。
少額管財の場合の予納金は、ケースの状況や裁判所の運用等によって異なりますが、おおむね20万円程度となります。
少額といえども管財事件であることには変わりありません。
破産者には、管財人の調査等に協力したり、債権者集会に出席したりする義務があります。
破産財団とは、「債権者への配当に回される予定の財産の集合体」であり、要するに「破産者の手元に残すことができない財産」です。

なお、債務者の手元に残せる財産の範囲(自由財産)については注意すべきポイントがあります。

・自由財産として残せる財産の具体的金額は全国で統一されていない。
各地方裁判所の判断に委ねられているため基準が異なる場合も多い。

・自由財産は、各債務者の個別事情により拡張できることがある。
申立代理人弁護士から裁判所に「自由財産拡張の申立て」を行って認められた場合にのみ拡張することができる。

・差押禁止財産は民事執行法で規定されている部分(給料債権の4分の3など)。

・新得財産は、「破産手続開始決定」以降に取得した財産。

※破産財団に属していた財産であっても、「売却不能」などさまざまな事情で破産財団から放棄されることがあります。
換価、配当に関する破産管財人の業務は、破産財団に属している財産の価格を評定することから始まります。

債権者への通知などの代行

東京地裁はその案件数の多さから他の裁判所にはない独自の運用を行っていますが、

・「債権者が多数」
・「破産管財人の協力が得られる」

という場合に限り、破産財団の費用を使って「破産手続開始決定通知書」や「破産債権届出書」などの発送を破産管財人から行っています。

差押等がついている場合は執行の停止

また、事案によっては破産手続開始決定の前に債務者の財産に差押え等がされている場合がありますが、これらの取消を裁判所に上申したり、債権者に取り下げの交渉をします。

破産者の財産換価(お金に換える)


上記のとおり破産者は自分の財産を「自由財産」として手元に残してよいとされた分以外は基本的にすべて失います。

これらは破産財団に属することになりますが、管理処分権を持つのは「破産管財人」となります。
どのような時期に、どのような方法で換価するかは破産管財人が判断することになっていますが、破産管財人の使命は

「どれだけ債権者への配当を増やせるか、債権者間の公平性を保てるか」

ということですので、財産をできるだけ高く売り、破産財団の内容を充実させることを目的として動いています。

否認権の行使


「否認権」というのは、破産者が破産手続開始の前に自分の財産を不当に減らすような行為をした場合それを否定するもので、破産管財人独自の権利として認められています。

自己破産すると財産を失うということはよく知られているため、安易に親族などに財産を移そうとする人がいますが、これは非常に危険な行為だということです。
もし、故意であり悪質であれば最悪の場合は「免責不許可」になる可能性もありますのでくれぐれも気をつけなければなりません。

否認権を行使される行為とは?


・詐害行為
詐害行為とは、破産者が自分の財産を絶対的に減少させるような行為です。
「不当に安く売る」などが典型的なものです。

また、破産申立ての時期に近い離婚で、配偶者に不相応に高額な財産分与や慰謝料を給付しているケースがあります。

このような場合、「慰謝料の要素を含めても不相当に財産分与額が大きい」または「慰謝料について破産者が負担すべき損害賠償額を超えているとみられる」のように判断されれば「過大と判断される部分に限って」否認されることとなります。

・偏頗(へんぱ)行為
すべての債務の支払いが不能になったことがわかった時期、または破産手続申立てをする時期になって特定の債権者にだけ担保を提供したり、債務の弁済やそれに準じる行為(相殺など)をした場合です。

否認権行使の方法

上記のように否認権行使は破産管財人独自の権利ですが、いくつかのパターンがあります。

・自ら原告になり、否認訴訟を起こす。
・破産管財人を被告とする訴訟で抗弁(相手の言い分に対して法律的に言い返すこと)する
・裁判所に対し否認請求を申し立てる

否認権行使の効果


否認権が行使されると、流出してしまった財産が当然に破産財団に復活します。

もちろん、安価に売却した例で相手方が対価を支払っているなどの事情があればそれを破産財団から相手方に返還します。

債権者集会に関する手続き


債権者集会とは、債権者に対して破産に至る経緯や配当できる財産の状況などを報告するために行うものです。
破産者の中には債権者から罵倒されることを恐れている人もいるのですが、実際にはドラマの中で見るような怒号が飛び交う債権者集会は、マスコミで話題になるレベルの会社破産など本当にごく一部です。

実際の債権者集会は債権者が出席しないことも多く、出席したとしても淡々と報告がされて短時間で終わることが大半です。

東京地裁の場合、全件について「財産状況報告」のための債権者集会を開くことになっていますが、破産管財人はその準備も大切な仕事です。

・事前に(1週間前までに)裁判所との間で打ち合わせ(電話やFAX)
・当日には財産目録、収支計算書、破産手続開始に至った事情などの報告書を提出

債権者集会の当日は書面による資料もあるため、口頭では簡単な説明を行います。

事件の複雑性によって何回の債権者集会を開くかが決まってきますが、個人破産の場合は1回で済むことが多くなるでしょう。

配当や廃止などに関する手続き

上記で、「破産者の財産を換価する」と説明しましたが、換価した財産を使って

・破産手続きに必要な費用の支弁(まかなう)
・債権者への配当

を行います。

破産管財人が必要となる場合とは

Q.破産管財人が選任されるのは、どんな場合?
A.財産がある人や、免責不許可事由がある場合などは、破産管財人が必要となる。

では、実際に破産管財人が選任されるのはどのような場合なのでしょうか?
個人の破産手続きで破産管財人が選任されるのは大きく分けて2つです。

1.配当すべき財産がある
2.免責不許可事由が存在する


免責不許可事由とは、財産隠しをする、債権者をだまして借り入れた、破産手続きに協力しなかった、ギャンブルで財産の大半を失ったなど、普通に免責させるには道義的に問題があり慎重に免責を判断する必要がある事由のことです。

1と2のいずれか、あるいは両方が存在する場合に裁判所はその事件を「管財事件」に振り分け、破産管財人を選任することになります。
本来であれば、破産手続きの原則は、「管財事件(破産管財人を選任する手続き)」です。

ただ、実務的には配当すべき財産を持っている債務者の方が圧倒的に少ないため、多くのケースが(7割~9割、年度や地域によっても若干異なる)同時廃止事件となってしまっているのです。

破産管財人が選任された場合の破産者への影響


Q.破産管財人がつく場合には、破産者に何か影響はある?
A.郵便物の転送や、事情聴取、財産の換価などが行われる事になるから、同時廃止よりも長い期間がかかってしまいます。

では、破産管財人が選任される(管財事件になる)と、破産者本人に与える影響としてはどのようなものがあるのでしょうか?

事情聴取を受ける

上記の
・「配当財産がある」
・「免責不許可事由がある」
どちらのタイプでも、破産管財人になった弁護士の事務所に破産者が出向いて、打ち合わせや事情の聴き取りをすることになります。

前者(配当財産がある)の場合であればどこまでの財産を換価すべきかという問題があります。
生活状況によっては「自由財産(破産者の手元に残すことを許される財産)」を拡張することが必要なこともあるため、家計全体がどのようになっているかを把握する必要もあるのです。

管財事件での換価について、実際にあったのはたとえばこんな事例です。
「本来、保険を解約して返戻金を配当するべきだったが、破産者の家計や、その保険が子供のために掛けていた学資保険だった関係上、将来の進学に必要と思われる一定の契約を残してもらうことができた」

また、後者(免責不許可事由がある場合)では、極端な浪費などが原因で免責不許可事由に該当する場合は、その背後に複雑な事情(精神疾患)などが潜んでいることもあります。
事情によっては破産管財人が最終的に裁判所に「免責相当」という意見を出して「裁量免責」することもあります(むしろそうなるケースの方が圧倒的に多いといえます)。

このように破産者個人個人を「ケースバイケース」で見る必要があるため、破産管財人と破産者の面談は入念に行われなくてはなりません。

裁判

本来、債務者自身がすべきだった訴訟を、破産者として破産管財人がついたために破産管財人が代理して行うこともあります。
これは、より多くの資産を破産者の手元に回収して債権者への配当を増やすためです。

たとえば
・貸金、売掛金回収のための訴訟
・消費者金融などに利息を払い過ぎていた場合の「過払い金返還請求訴訟」
のようなものです。

郵便物が転送される
管財事件に限ってのことですが、破産者あての郵便物が破産管財人に転送されるという処理がされることがあります。
これは、裁判所が郵便事業者に対して嘱託(依頼)する形で行いますが、現在の破産法ではこの転送嘱託は任意となっています(東京地裁については管財事件全件で行う運用になっています)。
郵便物には債権債務や財産に関係するものも多く、これらをチェックすると隠していた債権額や債務者の資産がわかることもあるからです。
ただ、転送嘱託がされた場合でも、破産管財人の手元で「破産手続きに関係なし」と判断された場合には破産者に返却してもらうことができます。
この場合、破産管財人から破産者に送ると結局また転送で破産管財人のところに戻ってきてしまうため、破産管財人の事務所に取りに行くことが通常です。

財産の換価


財産については上記のとおり「自由財産」として債務者の手元に残せる部分以外は換価し、配当されます。

この記事を書いたのは

山本昌一株式会社Shoichi代表取締役
山本 昌一
大学在籍中からヤフーオークションでブランド商品・アパレル等の販売などを行い オークションで仕事をする自営業の道を選ぶ。
その後在庫処分ビジネスをスタートし、20年間在庫処分の業界に身を置く。 累計4000社のあらゆる在庫処分を手掛ける。

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